比嘉清の文でおぼえるうちなあぐち

聴ち美らさ 語い美らさ 書ち美らさ 御万人ぬうちなあぐち

はいさい、ぐすうよう。いめんせえびり。 うちなあぐちの散文を丁寧文で実践している比嘉清です。 うちなあぐちへは散文から入るのも一つの手です。沖縄の団塊世代は日本語を学ぶのに100%近くが小学校の教科書から入りました。大きくなって発音の違いに苦労しましたが、長い目でみれば、今は文章から入ってよかったと思っています。

2010年01月

日本語

①怠けていても、賃金は同じかい。
②もう、いいかい、おじいさん。
③散らかっているいるのは、彼の部屋か。
④パソコンというのは、これか。
⑤新垣というはあなたの名前かい。

うちなあぐち

①油断(ゆだん)そおてぃん、手間(てぃま)あ同(い)ぬむん
②なあ、とう、うすめえ、御主前(うしゅめえ)。
③やまがりとおしえ、彼(あり)が座(ざあ)
④パソコンんでぃしえ、くり
⑤新垣(あらかちい)んでぃしえ、うんじゅが名(なあ)

【解説】
 前講にあるように名詞に直接付く疑問詞「い」は地方では、一部が慣用的に使われている他はあまり使われていません。多くは名詞とこの疑問詞「い」の間に存在動詞を介在させる言い方「―やみ」(存在動詞「やん」+疑問助詞「み」)が使われます。後者の方が発音が明確でもあります。本講で扱う「い」は「―やみ」に比べると軽い疑問であり、存在動詞を略する事で、その丁寧な言い方(丁寧文)も定かでなく、柔らかい表現をする「なあ」や感嘆詞「てえ」を付ける事ができない窮屈な表現となります。日本語訳としては軽い疑問を表わす「―かい」が適切かもしれません。

例文① 「油断」は「油断」という意味の他、「怠慢」という意味にも転用されています。
例文③ 「やまがりとおん」は「やまがりゆん」の進行形です。「やまがりゆん」は『沖縄語辞典』にはありませんが、「やま(野生、野蛮等)」から「やまちりゆん(混乱する、収拾がつかなくなる等)」と関係ある語です。
例文④ 「パソコンでぃしえ」は厳密には「パソコン んでぃしえ」となりますが、「ん」の連続をさけた表記にしてあります。
例文⑤ 「新垣」は平民は「あらかちい」と語尾を引っ張り、士族は「あらかち」と語尾を短く言ったとの事です。平民しかいない現代ですが、私たち平民は今でも語尾を伸ばして言います。例えば、私(比嘉清)は、小学校の頃から現代に至るまで、同級仲間から呼ばれる場合は性は「ふぃざあ」、名は「きよしい」なのです。

  
【応用問題】
 次の文を疑問助詞「い」を用いる文に直しなさい。
①変気(ふぃんち)そおしえ、あぬ童(わらび)どぅやんなあ。
②病院(びょういん)や養生(ようじょう)(註1)する所(とぅくる、とぅくま)どぅやみ。
③なあ、済(し)むみ、あんまあ。
④今度(くんどぅ)お、世(ゆ)果報(がふう)やんてえ。
⑤良(ゆ)う燃(め)えゆしえ、木薪(きだむん)どぅやんなあ。(註2)

答え:
①変気そおしえ、あぬ童
②病院や養生する所
③なあ、とお、あんまあ。
④今度お世果報
⑤良う、燃えゆしえ木薪

日本語意訳:
①だだをこねているのはあの子かね。
②病院は治療するところかい。
③もういいかいお母さん。
④今年は豊作かね。
⑤良く燃えるのは薪かい。

註1:「養生」は「治療」という意味に転化しています。註2:「木薪」は『沖縄語辞典』にはありません。

日本語

①テレビは、安くなかったですか。
②はい、安くなかったです。
③はい、安くなかった。
④はい、安くなかったよ。
⑤うん、安くなかったさ。
⑥うん、安くなかったなあ。

うちなあぐち

①テレビえ、安(や)っさあ ねえやびらんた
②うううう、安っさあ ねえやびらんたん。
③いいいい、安っさあ ねえらんたん。
④いいいい、安っさあ ねえらんたんどお。
⑤いいいい、安っさあ ねえらんたさ。
⑥いいいい、安っさあ ねえらんたっさあ。

解説】
過去文において否定疑問を表わす助詞として「み」が使われます。現在文における疑問助詞は、実は否定助動詞「ん」と本来の疑問助詞「み」が音韻結合して「に」になったものです。例えば、「食まに(食べないか)」は「食まん+み」の「ん+み」が「に」になったのです。これらについては第2講参照。
はるか古代に日本語と分かれた沖縄語ですが、現在の日本語にはない言語習慣が沖縄語にはあります。否定疑問文に対する返事の「はい」と「いいえ」が日本語とは逆になる事です。日本語では質問の否定を肯定するから、返事は「はい」になりますが、沖縄語では、質問内容が肯定であろうが否定であろうが、答える内容が否定である場合は、「うううう(いいえ)」や「いいいい(いいえ)」等を使います。

【応用問題】
次の日本語文を沖縄語で表わしなさい。

①会社には行きませんでしたか。
②会社には行かなかったか。
③ええ、会社には行きませんでした。
④ええ、会社には行かなかった。
⑤ええ、会社には行かなかったよ。

答え:
①会社(くぁいしゃ)んかいや、行(い)ちゃびらんたみ。
 会社んかいや、めんそおらんたみ。目上
 会社んかいや、めんせえびらんたみ。目上丁寧
 会社んかいや、もうらんたみ。目上
 会社んかいや、もうやびらんたみ。目上丁寧
②会社んかいや、行かんたみ。
③うううう、会社んかいや、行ちゃびらんたん。
④いいいい、会社んかいや 行かんたん。
⑤いいいい、会社んかいや 行かんたんどお。

日本語

①明日は、盆入りじゃないですか。
②そうです、盆入りです。
③そうだよ、盆入りだよ。
④そうだ、盆入りだよな。
⑤それは、あなたのものじゃないですか。
⑥さあ、私の物ではありません。

うちなあぐち

①明日(あちゃ)あ、御迎(うんけ)えやあいびら
②やいびいん、御迎えやいびいん。
③やんどお、御迎えやんどお。
④やさ、御迎えやっさあ。
⑤うりえ、うんじゅが物(むぬ)おあいびら
⑥しら(註)、我物(わあむん)のおあいびらん。

【解説】
「―じゃないのか」「―ではないか」と、否定の疑問文となっている場合は疑問助詞「に」を使います。日本語では、疑問詞は、一括して、「か」が使われるのに対して、沖縄語では、第1講から見てきたように、疑問文の種類によって、「が」「み」「い」「に」等と、使用する疑問助詞を使い分けます。ローマ字表記(音素表記)におけるこの「に」の取扱いについては、第2講をご参照ください。

例文① 「御迎え」は、「祖先を御迎え」するという意味で、「盆入り」に当たります。
例文①~②、⑤~⑥は丁寧文で、③は非丁寧文でかつ感嘆詞「どお」が付く例です。「どお」は概ね、日本語の「よ」に対応します。
例文④ 「やさ」の「さ」は感嘆詞です。「さあ」は「さ」の伸ばし音ではなく、「だな」、「だよ」、「よ」等に対応する感嘆詞です。この場合、前語の語尾が促音便になります。ここでは「やん」の「ん」が促音便「っ」になっています。
例文①、⑤ 丁寧かつ疑問助詞「に」を使う例です。
例文③、④ 非丁寧文かつ文末に感嘆詞を使う例です。
例文⑥ 「しら(註)」は軽い否定を表わす感嘆詞で概ね日本語の「さあ」等に対応します。

【応用問題】
次の日本語文を沖縄語に直しなさい。
①あそこへ、行きませんか。
②あそこへ、行かないか。
③行きます。(行く、行くよ。)
④今日は暑くないですか。
⑤今日は暑くないか。
⑥暑いです。(暑い、暑いさ。)

答え:
①あまんかい、行ちゃびら
②あまんかい、行か
③行ちゃびいん。(行ちゅん、行ちゅんどお。)
④今日(ちゅう)や暑(あち)さあ無(ね)えやびら
⑤今日や暑さあ無えら
⑥暑さいびいん。(暑さん、暑さっさあ。)

註:「しら」は「しらなあ」とも言います。前者が日本語の「さあ」に対応するなら、後者は「さあもう」等に対応します。「知らん」からきた感嘆詞なのでしょうか。『沖縄語辞典』にはないようです。

日本語

①そうなんですか。
②そうなんです。(そうなんですよ。)
③そうなんだ。(そうなんだよ。)

うちなあぐち

①あんどぅやいびいる
②あんどぅやいびいる。(あんどぅやいびいさ。)
③あんどぅやる。(あんどぅやんどお。)

【解説】
 文中に強調を表わす助詞「どぅ」またその清音である「る」がある場合の疑問文は疑問を表わす助詞「い」を用います。
 強調文とは、文中に強調を表わす助詞「どぅ(る)」がある文の事を言います。係り結び文とも言います。文中に強調助詞がある場合は述語等を表わす動詞、助動詞、存在動詞及び形容詞等の用言は通常は連体形で結びます。否定文の場合は第99講参照。
例:「あんまあがる見じゅる」(母こそが見るのである)。
 「どぅ」は、前語が「が」や「でぃ」等のように濁音である場合や「ぬ」となる場合、多くは「る」になります。地方によっては、もっぱら「る」となる事もあります。(もっとも、沖縄の首里那覇含む、中南部では、r音とd音の区別は厳密にはしません。「琉球」も「るうちゅう」と「どぅうちゅう」の二通りあります。)

例「―がる」、「―でぃる」、「―ぬる」等。

例文① 文末の「い」は文中の強調を表わす助詞「どぅ」を受けて用いられる疑問助詞です。
山内獏の詩にある有名なフレーズ、「うちなあぐちまでぃん、むる戦にさったるばすい(沖縄語までも、全部、戦争にやられたわけか)」も疑問助詞「い」を使っていますが、「い」は強調疑問だけなく、名詞や副詞等にも付きます(第6講参考)。
例:「とうい」(いいですか)。「か(ん)にい」(こうか)。「ちゃあ、頑丈い」(ずっと、お元気ですか)。
例文② 丁寧文かつ強調文の例です。もっと約まった「あんで(い)えびる」もあります。他に約まる例には「良い正月でえびる(元旦の挨拶)」、「にふぇえでえびる(ありがとうございます)」等があります。
例文③ 非丁寧文かつ強調文の例です。

 
【応用問題】
強調助詞を使って、次の日本語文を沖縄語で表しなさい。
①今日も暑いですか。
②はい、今日も暑いのです。
③あそこに行くつもりですか。
④ええ、行くつもりですよ。

答え:
①今日(ちゅう)ん 暑(あち)さどぅあいびいるい。
②うう、今日ん 暑さどぅあいびいる。
③あまんかい 行ちゅる積合(ちむええ)どぅやいびいるい。
④いい、行ちゅる積合やいびいん。

【関連話題】かくれんぼで「とうい」や「なあい」は「もういいかい」。「もういいよ」は「とうるう」。子供向けの「うちなあぐち遊び」や「勉強会」等で教えたい語句です。

日本語

①雨が降っていますか。(雨が降っているか)
②はい、雨が降っています。
③薪は、燃えているか。
④いいえ、燃えていません。

うちなあぐち

①雨(あみ)ぬ降(ふ)とおいびい。(雨ぬ降とおみ)
②うう、雨ぬ降とおいびいん。
③薪(たむん)のお、燃(め)えとお
④うううう、燃(め)えてえ居(をぅ)いびらん。

【解説】
特定の状況、特定のものを尋ねる(問う)場合には疑問詞「み」を使います。日本語では不定疑問も特定疑問も疑問詞「か」で統一されていますが、沖縄語では使い分けられます。
 但し、『沖縄語辞典』には、この特定疑問を表わす助詞「み」は、用言の語尾「n」から変化した「m」と「本来の疑問助詞」ある「i」が結合したものであるとしています。ですから、同書には助詞としても「み」は掲載されていません。(前講で取り上げた疑問助詞「に」についても同様な扱いとなっています。)
 ローマ字(音素)表記となっている前掲書としては、ローマ字で表現できる方法で説明するのは当然ですが、ひらがらを使用文字とする本書においては、「み」や「に」を語として扱わなければなりません。ひらがな表記の言語をローマ字で説明する場合は、音韻説明と文法の説明とは別けられるべきであり、混同されるべきではありません。両者を混同した場合、「み」は「むい」、「に」は「んい」等と表記するはめになってしまいます。文法説明は表記文字や表記法によって異なるのです。

例文① ( )は非丁寧文です。
例文②及び④ 日本は欧米に比べると、上下関係がうるさいです。沖縄はもっと厳密すぎます。日本語の「はい」が上下関係によって、使い分けられるのです。これでは、目上の者と話する場合は緊張してしまいますが、これも言語習慣です。沖縄語を知らずに育った現代のリベラル志向の若い方々も匙を投げずに、一応、目を通してください。目上の者には「うう」、目下の者には、「いい」、目下の年長者には、「おお」、親しい者や目下には、「んん」等と使い分けます。
 否定や拒絶の場合は、それぞれ、「うううう」、「いいいい」、「おおおお」、「んんんん」等となります。何れも、前の二文字目(2音節目)は伸ばし音で、三文字目は急激に揚げ音且つアクセントにし、最後に下げ音にします。

  
【応用問題】
次の日本語を沖縄語で表しなさい。
①その肉は安いですか。
②はい、安いです。一キロ50円です。
③もう、夜は寒くなっていますか。
④はい、もう、寒くなりましたよ。

答え:
①うぬ肉(しし)え、安(や)っさいびいみ。
②うう、安っさいびいん。一キロ50円(いん)やいびいん。
③なあ、夜(ゆる)お、寒(ふぃい)くなとおいびいみ。
④うう、寒(ふぃい)くなとおいびいんどお。

   
【関連話題-返事】呼びかけに対する応答は、本文例の他に現実には主には女性が使う「ふう」はじめ「ひい」、「ふん」、等のバージョンもあります。士族社会の名残りのある首里等で厳しい返事のし方も、特にリベラルの波が押し寄せたわけでもない地方においては上下に関係なく「んん」(肯定)、「んんんん」(否定)で通る場合が多いです。

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