比嘉清の文でおぼえるうちなあぐち

聴ち美らさ 語い美らさ 書ち美らさ 御万人ぬうちなあぐち

はいさい、ぐすうよう。いめんせえびり。 うちなあぐちの散文を丁寧文で実践している比嘉清です。 うちなあぐちへは散文から入るのも一つの手です。沖縄の団塊世代は日本語を学ぶのに100%近くが小学校の教科書から入りました。大きくなって発音の違いに苦労しましたが、長い目でみれば、今は文章から入ってよかったと思っています。

2010年02月

日本語

①お兄さん、そこの米を持ってきてください。
②バッターは球を打ち、一塁に走った。
③弟は石垣に立って、手を振っていました。
④彼等に勝って、喜んでいます。
⑤ここで待って、お休みになられてください。

うちなあぐち

①やっちいさい、うぬ米(くみ)、持(む)っ来(ち)、呉(くぃ)みそおり。目上
②バッターや球(たま)打(う)っ、一(いち)塁(りい)んかい、走合(はあええ)なたん。
③弟(うっと)お、石垣(いしがち)ぬ上(ゐい)んかい立(た)っ、手振(てぃいふ)とおたん。
④あったあんかい勝(か)っ、いしょうさいびいん。丁寧
⑤くまんじ待(ま)っ、憩(ゆく)とおちみそおれえ。目上

【解説】
 動詞終止形がチュン、否定(未然形+否定を表わす助動詞)がタンとタ行であり、接続態がチとなる動詞をタ行チュン・チ動詞と言います。この動詞は左例のように数が少ないです。
例文① 「呉みそおり」は目上語でかつ澄まし言葉です。もちろん、通常の会話でも使用されます。「呉みそおれえ」はくだけた言い方です。敬語だから「くだけて」はいけないという事はありません。良く使われる「めんそおれえ(いらっしゃい)」は「めんそおり」のくだけ言葉です。参考127頁「めんそおり考」。

例文② 「走合なたん」の「走合」は筆者の当て字です。
例文④ 「彼等」に対応する指示代名詞複数形は、「あったあ」、「うったあ」、「くったあ」の三通りあります。
例文⑤ 「憩とおちみそおれえ」は「憩とおちみそおり」の澄まし言葉に加え、「ゆくとおかれえ」、「ゆくとおかり」という敬語もあります。敬語(目上言葉)については第51~56講参照。
右の接続態と同じ意味を表わす別形は、例文順に、持っちゃあま、持っちゃあに、持っちゃあい、打っちゃあま、打っちゃあに、打っちゃあい、立っちゃあま、立っちゃあに、立っちゃあい、勝っちゃあま、勝っちゃあに、勝っちゃあい、持っちゃあま、待っちゃあに、待っちゃあい。

●少ないタ行チュン・チ動詞例:打っちゅん(打つ)、立っちゅん(立つ)、持っちゅん(持つ)、勝っちゅん(勝つ)等。

  
【応用問題】
 次の沖縄語を日本語に直しなさい。
①待(ま)っん、待たらん運動会。
②ちゃっさ、打(う)っん、腰(くし)え痛(や)まんさ。
③勝(か)っん、負(ま)きてぃん、同(い)ぬむんやいびいさ。
④立(た)っ、歩(あ)っちゅしえ、あんまさいびいん。
⑤雨(あみ)ぬ降(ふ)とおくとぅ、傘(かさ)持(む)っ、行(い)ちゃびたん。

答え:
①待ちかねている運動会。(待ても待てない運動会)
②いくら、打っても、痛くないよ。
③勝っても負けても同じですよ。
④立って歩くのはつらいです。
⑤雨が降っていたので、傘を持って行きました。

日本語

①その子はやりたい放題して、良い子じゃない。
②姪子は喜んで、芝居を見に行った。
③僕は立ちっぱなしで、こむらがえりしている。
④嫁は男の子を産んで、ほっとしている。
⑤芋は蒸してこそ、食べるのである。

うちなあぐち

①うぬ童(わらび)え、しい欲(ぶ)しゃふんでえし、しょうんいらん。
②姪子(みいっくぁ)あ、いしょうさし、芝居見(しばいん)じいが、い行ちゅたん。
③我(わん)ねえ、ちゃあ立(た)っちいし、くんだああがやあそおん。
④嫁(ゆみ)え、男(ゐきが)ん子(ぐぁ)産(な)ち、うみなあくなとおん。
⑤芋(んむ)お、蒸(ん)ぶちどぅ、食(か)むる。

【解説】
 この講は第25、26講で説明したスン・チ動詞とスン・シ動詞を直接比較するためのものです。

●スン・シ動詞:例文①~③。終止形語尾が「-すん」、語幹が単独で名詞になりえるもの。
●スン・チ動詞:例文④~⑤。右以外のスン動詞で、日本語動詞の語尾部分が概ね「―す」になる動詞及び使役を表わし、語尾部分が「-せる」になる動詞に対応する沖縄語動詞がそれに該当します。
例文① 「しい欲さふんでえ」の「ふんでえ」は「我儘。駄々をこねる」の意味。「とぅ取いぶ欲さふんでえ」は「取りたい放題」、「―欲さふんでえ」は「―し放題」の意味。「しょうん(そう)いらん」の「しょう(そう)」は「人の性、知恵、賢さ」等を指して言います。直訳は「性 も 入ってない」です。

例文④ 「産すん」は、少し前まで、日本語でも「子を為す」という使い方がありました(司馬遼太郎の歴史小説等)。

 
【応用問題】
 次の動詞の接続態の形を示しその動詞の種類を答えなさい。例:くぁっくぁ隠すん→隠ち。スン・チ動詞。
①かあ乾らかすん。(乾かす)
②ちゃあ、む待っちいすん。(持ち続ける)
③わじらすん。(怒らす)
④ふぃんち変気すん。(不機嫌になる)
⑤や悪なしいすん。(ダメなやり方をする)

答え;
①乾らかち。スン・チ動詞
②ちゃあ、待っちいし。スン・シ動詞
③わじらち。スン・チ動詞
④変気し。スン・シ動詞
⑤悪なしいし。スン・シ動詞

日本語

①私は沖縄で仕事をして、暮らしています。
②男は彼女を妻にして、満足していた。
③弟は兄と勝負して、負けた。
④私たちは沖縄語を疎かにしてきた。
⑤子供らはプールで潜って、遊んでいる。

うちなあぐち

①我(わん)ねえ、沖縄(うちなあ)んじ、仕事(しくち)し(しち)、暮(く)らちょおいびいん。
②男(ゐきが)あ、彼女(あり)、妻(とぅじ)し(しち)、肝(ちむ)ふじょおたん。
③弟(うっと)お、兄(しいざ)とぅ勝負(しゅうぶ)し(しち)、負(ま)きたん。
④いがろうや、沖縄語(うちなあぐち)、粗相(すそうん)し(しち)、来(ち)ゃん。
⑤童(わら)ん達(ちゃあ)や、プールんじ、潜(しい)みし(しち)、遊(あし)どおん。

【解説】
 終止形がスン、否定(未然形+否定を表わす助動詞)がサン、接続態がシの形をしている動詞をスン・シ動詞(接続態がシチになる地方では、スン・シチ動詞)と言います。さらに、うるま市(与勝、石川等)、東風平等南部の一部及び北部の一部の地方等では、ハ行ハン・チ動詞となります(すなわち、終止形がフン、否定がハン、接続がチとなります)。
 前講でも既述した通り、日本語の「名詞+する」に対応する動詞は、首里語の一部では、まだ「しゅん」のままのものもありますが、多くは、「すん」に移行していると考えられる事から、ここでは「すん」とします。なお、『沖縄語辞典』では、「すん」は「不規則」として扱われており、否定形、接続態が示されておらず、該当する例文もありません。
前講の「スン・チ動詞」(参前講)とは語尾部分(すん)が似ているだけです。日本語の「―をする」や「(名詞=語幹)する」(例えば「運転する」)に対応する動詞が本講の「スン(シュン)・シ」動詞)です。
 この接続態の別形は例文順に、仕事さあま、仕事さあに、仕事さあい、妻さあま、妻さあに、妻さあい、勝負さあま、勝負さあに、勝負さあい、すそんさあま、すそおんさあに、すそおんさあい、潜みさあま、潜みさあに、潜みさあい。
スン・チ動詞とスン・シ動詞の区別法は、第25講を参照してください。
  
【応用問題】
 次の日本語文を沖縄語に直しなさい。
①母は手枕して、寝ていらっしゃる。
②彼は父と相談して、帰った。
③女たちはおしゃべりして、笑っていた。
④子供たちは、腹をすかして、しゃがんでいる。
⑤お婆さんは寒さで家に縮こもっている。

答え:
①あんまあや、手枕(てぃいまっくぁ)、寝(に)んとおみせえん。
②彼(あり)え、父(すう)とぅ物相談(むぬそうだん)、帰(けえ)たん。
③女(ゐなぐ)ん達(ちゃあ)や、ゆんたく、笑(わら)とおたん。
④童(わら)ん達(ちゃあ)や、やあさ、ふぃらきとおん。
⑤婆前(はあめえ)や、寒(ふぃ)いさ曲(ま)がい、家篭(やあぐ)まいそおん。

日本語

①古い家を壊して、新しい家を建てました。
②子供を起こして、学校に行かした。
③大事なものは隠して置きました。
④木を倒して、道を造ってある。
⑤火を燃やして、温まりました。

うちなあぐち

⑥古家(ふるやあ)壊(くう)、新家(みいやあ)、建(た)てぃやびたん。
⑦童起(わらびう)く、学校(ぐぁっこう)んかい、行(い)かちゃん。
⑧あたらさるむのぬお、隠(くぁっくぁ)、置(う)ちぇえいびいん。
⑨木倒(きいとお)、道造(みちちゅく)てえん。
⑩火燃(ふぃいめ)え、温(ぬく)たまやびたん。
  
【解説】
 終止形がスン、否定の形がサン、接続態がチの形になる動詞をスン・チ動詞と言います。「壊す」、「起こす」、「隠す」等、語尾が「す」となっている日本語動詞の殆どがこれに対応します。日本語では「する」動詞も「す」動詞も接続態は「して」という形になりますが、沖縄語ではそれぞれシ、チと別形になります。スン・チ動詞は、うるま市(与勝、石川等)、東風平等南部の一部及び北部の一部の地方ではハ行ハン・チ動詞となります(すなわち、終止形がフン、否定がハン、接続がチとなります)。
日本語の「名詞+する」に対応する動詞は、本来の首里語では「しゅん」ですが、殆どは、「すん」に移行していると考えられる事から、ここでは「すん」とします(拙書『実践うちなあぐち教本』に同様の説明をしています)。
 なお、この接続態の別形は例文順に、壊うちゃあま、壊ちゃあに、壊ちゃあい、起くちゃあま、起くちゃあに、起くちゃあい、隠ちゃあま、隠ちゃあに、隠ちゃあい、倒ちゃあま、倒ちゃあに、倒ちゃあい、燃えちゃあま、燃えちゃあに、燃えちゃあい。
スン・チ動詞の例:あだあすん(どなりつける)、くる懲すん(懲らす)、たぬかすん(たぶらかす、誘惑する)、まあすん(回す、亡くなる)、みんぐぁすん(濁す)、か食ますん(食べさす)等使役を表わす動詞は殆どこのグループに入ります。

スン・シ動詞とスン・ティ動詞の区別は左記のように行ないます。
●スン・シ動詞例:終止形語尾がスン、語幹が単独で名詞になりえる語(例:や悪なあ叫びいすん、やあさすん、だんぱち断髪すん)や日本語動詞の語尾部分が「―する」になる動詞に対応する沖縄語動詞(例:掃除する→そう掃じ除すん、得する→とぅく得すん)等。
●スン・チ動詞例:右以外のスン動詞で、日本語動詞の語尾部分が概ね「-す」になる動詞や使役動詞、語尾部分が「-せる」になる動詞に対応する沖縄語動詞(例:倒す→とお倒すん、歩かせる→あ歩っかすん、持たせる→む持ったすん等)です。
註:スン・シ動詞が『沖縄語辞典』で接尾辞扱いされているのは、語幹が名詞(動名詞含む)と組み合わせて用いられるからですが、単独で用いる例として、「あんせえ、すみ(それでは、やるか)、「なあ、さんどお(もう、しないよ)」等。

 
【応用問題】
次の日本語を沖縄語に直しなさい。
①部屋を明るくしてください。
②お金を落としてしまいました。
③病気は治してから、頑張ればよい。
④借金を返して、ほっとしているよ。
⑤どうか、雨を降らして賜れ。

答え:
①座(ざあ)、明(あ)かがら、呉(くぃ)みそおり。目上
②銭(じん)、落(う)とぅ、ねえやびらん。
③病(やんめえ)や治(のう)から、うみはまれえ済(し)むん。
④うっか返(けえ)、うみなあくなとおさ。
⑤どうでぃん、雨降(あみふ)ら、たぼうり。

日本語

①私は、今から歩いて行きます。
 行く。行くよ。行くぞ。
②庭は掃いてから、床は拭いてね。
③あの人を助けに行ってください。
④野菜は炒めて食べましょう。
⑤記事を書いて、疲れた。

うちなあぐち

①我(わん)ねえ、今(なま)から、歩(あ)っ、来(ち)ゃあびいん。
 来(ち)ゅうん。来(ち)ゅうさ。来(ちゅ)ゅうんどお。
②庭(なあ)や掃(ほ)うから、床(ゆか)あ拭(ふ)きよお。
③あぬっ人(ちゅ)、助(たし)きいが、行(ん)、取(とぅ)らしえ。
④やせえ野菜やい炒り、か食なびら(食ま(や)びら)。
⑤記事書(ちじか)、くだんてぃたん。

【解説】
 動詞が動詞等の用言に接続する形は日本語では連用形ですが、沖縄語では「か食みい欲しゃん」等の連用形とは別に、動詞から動詞や接続助詞等へ接続する場合は専用の形があります。この形を接続態(補助連用形、以下略)と言います。沖縄語ではその終止形、接続態及び否定形(未然形+否定助動詞「ん」)の「形」によって動詞の種類が分類できます。本講の例文で使った動詞はすべてカ行チュン・チ(ジ)動詞(註)という種類で、終止形がチュン、接続形がチ(註)、否定形がカンとなります。『沖縄語辞典』(国語国立研究所、以下略)にはすべての動詞について否定形と接続態の形が表示されています。例:haNcun (=kan、=ti)。本書のひらがな表記では「はんちゅん」、「(―かん、―てぃ)」となります。同辞典における記号「=」は語幹(haN、はん)を表わします。

註:否定(未然形+否定を表わす助動詞「ん」)の形の「カン」がカ行であること、終止形が「チュン」、接続態が「チ(一部は「ジ・ヂ」)」である事から、カ行チュン・チ動詞といいます。
この接続は次の様に別の形もあります。例文順に、歩っちゃあま、歩っちゃあに、歩っちゃあい、掃うちゃあま、掃うちゃあに、掃うちゃあい、行じゃあま、行じゃあに、行じゃあい、炒りちゃあま、炒りちゃあに、炒りちゃあい、書ちゃあま、書ちゃあに、書ちゃあい。
註:カ行チュン・チ動詞の中、接続態が「ジ」になるものを「カ行チュン・ジ(ヂ)活用動詞」と言います。「行ちゅん」が該当しますが数が少ないためチュン・チ動詞と一緒に扱う事もあります。附録動詞活用表では別立てにしてあります。
  
【応用問題】
 次の日本語文を沖縄語文に直しなさい。
①風が吹き、雨が降った。
②たまには民謡を聴いてみる。
③警察が泥棒を連行して行った。
④豆腐を炒めて食べる。
⑤家が揺れ、電灯が消えた。

答え:
①風(かじ)ぬ吹(ふ)、雨(あみ)ぬ降(ふ)たん。
②まるけえてえ、端唄(ふぁあうた)、聴(ち)んじゅん。
③警察(きいさち)ぬ盗人(ぬすどぅ)、すび、行(ん)じゃん。
④豆腐(とうふ)、炒(いり)、食(か)むん。
⑤家(やあ)ぬゐい、電灯(でぃんとう)ぬ消(ち)ゃあたん。

【第94講関連話題】
 小那覇舞天の糸満語を主にした漫談、「世界漫遊記」に次のような場面があります。「あまぬふぃいらあ、いがたあてんぶすんかい、うちかいびいさやあ、いがたあてんぶすお、みいらんかあみいらかあなるか、だてんやいびいん」(あそこのゴキブリを我々の臍に乗っけますとねえ、我々の臍が見えなくなるぐらい大きいです)。

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