比嘉清の文でおぼえるうちなあぐち

聴ち美らさ 語い美らさ 書ち美らさ 御万人ぬうちなあぐち

はいさい、ぐすうよう。いめんせえびり。 うちなあぐちの散文を丁寧文で実践している比嘉清です。 うちなあぐちへは散文から入るのも一つの手です。沖縄の団塊世代は日本語を学ぶのに100%近くが小学校の教科書から入りました。大きくなって発音の違いに苦労しましたが、長い目でみれば、今は文章から入ってよかったと思っています。

2010年04月

「沖縄語の書きことばの復興と実践を」と題する拙論をご参考までにご紹介いたします。
 沖縄語(うちなあぐち)が確実に生き残っていくためのヒントを読み取ることができれば幸いです。

日本語

①たくさんの本を読んで、勉強できる子になりました。
②海水を汲んできます。
③今日は頭が痛くて、どうしようもありません。
④昼飯はここで食べてから帰ってね。
⑤薬を飲んでから、水は飲もうか。

うちなあぐち

①ちゃさきいぬ書物(しゅむちゆ読(ゆ)でぃ、出来(でぃき)やあなとおいびいん。
②潮水汲(うすみじく)でぃ、来(ち)ゃあびいん。
③今日(ちゅう)や頭(ちぶる)ぬ病(や)でぃ、ふしがりやびらん。
④朝飯(あさばん)のお、くまんじ食(か)でぃから、戻(むどぅ)りよお。
⑤薬(くすい)や飲(ぬ)でぃから、水(みじ)え飲(ぬ)まな。

【解説】
 動詞終止形がムン、否定(未然形+否定助動詞)がマン、接続態がディの形をしている動詞をムン・ディ動詞と言います。但し、ムン・ディ動詞は首里語では上の形がそれぞれ、ヌン、マン、ディとなります。また、「済むん(済む、良い)」も終止形はムン動詞と同じ形ですが、接続態が二種類あります(済でぃ、済むてぃ)ので、厳密に言えば、このグループには属しません。強いて入れるとすれば、グループ内の変則動詞として扱う事になるでしょう。「済むん」については第34講参照。

例文①「ちゃっさきい」は「多く、沢山」という意味。「いちゃっさきい」という言い方もあります。「出来やあ」は「出来る人」の意味から転じて、「良く出来る子・人」、「頭の良い子・人」等の意味としても使われます。概ね首里以南ではdとrの区別をしない事が多いので、「りきやあ」とも言います。
例文③ 沖縄語の「やむん」というのは日本語の「病む」に対応する語ですが、「痛い」という意味もあります。
例文④「あさばん」は今の昼飯の事。朝食は「すていむてぃむん」はじめ「すてぃむてぃい」、「してぃみてぃい」、「ひてぃみてぃい」等の変形があります。その丁寧語は「すてぃむてぃぶん」。昔は日に二食しか食べなかったといわれ、早めの食事を「朝飯」と言い、遅めの食事を「ゆうばん(夕飯)」と言ったといいます。後から付け足して摂るようになった朝食は「朝」を意味する「すてぃむてぃ」に「むん(飯)」を付けて造語したのでしょうか。
例文⑤ 「飲まな」の「な」は勧誘等を表わす終助詞で未然形に付き、「行かな」、「遊ばな」で「行こうよ」、「遊ぼうよ」等の意味となります。「くすい薬や」は首里語では「くせ薬え」。参考附録「ヤ系係助詞一覧」。
 
 なお、右の接続と同じ意味を表わす別形は、文例順に、
読まあま、読まあに、読まあい、汲まあま、汲まあに、汲まあい、病まあま、病まあに、病まあい、食まあま、食まあに、食まあい、飲まあま、飲まあに、飲まあい。

【応用問題】
 次の日本語文を沖縄語文に直しなさい。
①太郎は腕を組んで考えました。
②お客は靴を履いて外出しました。
③赤子は顔をしかめて、泣いています。
④バナナが熟んで、その房が垂れ下がっています。

答え:
①太郎(たるう)や腕組(うでぃく)でぃ、考(かんげ)えやびたん。
②客(うちゃく)お、靴履(ふやく)でぃ、出(ん)じやびたん。
(出じみそおちゃん。目上)
③赤(あか)ん子(ぐぁ)あ、わじゃでぃ、泣(な)ちょおいびいん。
④芭蕉実(ばさない)ぬ熟(ん)でぃ、うぬ房(ふさ)ぬ垂(た)い下(さ)がとおいびいん。

日本語

①もう、寝て、良い夢でも見てみましょうよ。
②日差しが強いので、帽子を被って、外出しました。
③打ち紙は燃やしてから、手を合わせましょうよ。
④母はにこにこ笑って、僕をみていた。
⑤子供が障子紙を破って、親に叱られた。

うちなあぐち

①なあ、寝(に)んてぃ、良(い)い夢(いみ)やてぃん、見(ん)ち見(な)あびらな。
②太陽(でぃだ、でぃいだ)ぬ強(ちゅう)さぬ、帽子(ぼうし)被(か)んてぃ、出(ん)じやびたん。
③打(う)ち紙(かび)え、炙(あん)てぃから、手(てぃい)やうさあさびらな。
④あんまあや、笑(われ)えかんてぃ、我(わん)、見(ん)ちょおたん。
⑤童(わらび)ぬ明(あ)かい紙(かび)、破(やん)てぃ、親(をぅや)なかいぬらあったん。

【解説】
 動詞終止形がジュン、否定(未然形+否定を表わす助動詞)がダン、接続態がティの形をした動詞をダ行ジュン・ディ動詞と言います。

例文①「見(な)あびらな」は「見(ん)だな」(「見(ぬ)うん」の丁寧の未然形+な)の丁寧形です。さらに丁寧助動詞「びいん」は未然形(びいん→びら)になっています。「見あびら」ここでは、補助動詞であり、「見る」という意味がない事は、日本語の場合も同じです(=見てみる)。「な」は勧誘等を表わす終助詞です。補助動詞については第88~89講参照。
例文③「打ち紙」は後生のお金です。仏壇前で炙る事によって、ご先祖さまに「仕送り」します。仏壇に手を合わせるに来る親戚は、たいていは打ち紙一枚を持参して、仏壇主に預けます。「あん炙じゅん」は「あぶじゅん」とも言います。「手うさあすん」はここでは「仏壇に手を合わせる」という意味です。沖縄では「火ヌ神」や聖地備え付けの香炉等に対しては、通常「をぅがむん(うがむん)」と言いますが、仏前の場合は、「てぃい手うさあすん」が普通のようです。
例文④「笑えかんじゅん」は、多くは「われ笑えかんてぃぐぁあ小すん」であり、例文の形ではあまり使いません。
例文⑤ 障子は日本古語では「明かり障子」(『古語辞典』小学館)です。「明かい」の部分が沖縄語になったわけです。日本語語尾の「り」が琉球語音では「い」に変わります。例:しゅい首里、むい森、とぅう通い、うまちいお祭り等。
右の接続と同じ意味を表わす別形は、文例順に、寝んじゃあま、寝んじゃあに、寝んじゃあい、被じゃあま、被じゃあに、被じゃあい、炙じゃあま、炙じゃあに、炙じゃあい、笑えかんじゃあま、笑えかんじゃあに、笑えかんじゃあい、破じゃあま、破じゃあに、破じゃあい。

●ダ行ジュン・ティ動詞例: 寝んじゅん(寝る)、被じゅん(被る)、炙じゅん(炙る、燃やす)、破じゅん(破る)、ふぃちやんじゅん(誘惑などして堕落させる、悪へ誘う)、取いやんじゅん(しくじる、失敗する)、笑えかんじゅん(にこにこ笑う)等で少ないです。概ね日本語動詞の語尾が「-ぶる」となるものが対応するようです。

 
【応用問題】
 次の沖縄語文を日本語文に直しなさい。
①一夜(ちゅゆる)お、寝(てぃ)んてぃから、考(かんげ)えらな。
②むんじゅる笠被(がさかん)てぃ、舞(も)うやびたん。
③手(てぃい)あんてぃ、温(ぬく)たまたん。
④試験(しきん)取(とぅ)いやんてぃ、童(わらび)え、泣(な)ちょおたん。
⑤あぬ男(ゐきふぁ)あ、女(ゐなぐ)ふぃちやんてぃ、肝病(ちむや)まちょおん。
答え:
①一晩は、寝てから考えようかな。
②むんじゅる笠を被って、踊った。
③手を火にかざして、温まった。
④試験に失敗して、子供は泣いていました。
⑤あの男は、女を堕落させて、胸を痛めている。

日本語

①おじいさんが転んで、ひざを痛めました。
②冬になると、宮古にサシバが飛んできます。
③服は畳んで、仕舞いましょう。
④川には大きな桃が浮かんで、流れています。
⑤二人は生涯の愛の契りを結び結婚しました。

うちなあぐち

①御主前(うしゅめえ、うすめえ)ぬ転(くる)でぃ、ちんし、やまちぇえみせえん。
②冬(ふゆ)ないねえ、宮古(なあく)んかいサシバぬ飛(とぅ)でぃ来(ち)ゃあびいん。
③衣(ちん)のお、たくでぃ、かじみやびら。
④川(かあら)んかいや、まぎ桃(むむ)ぬ浮(う)かでぃ、流(なが)りとおいびいん。
⑤二人(たい)や、生(い)ちみとぅとぅうみ思(うみ)がなさすんでぃぬ契(ちじ)り結(むし)でぃ、にいびちさびたん。

【解説】
 動詞終止形がブン、否定(未然形+否定を表わす助動詞)がバン、接続態がディの形をしている動詞をバ行ブン・ディ動詞と言います。日本語動詞の終止形語尾が「飛ぶ」等のように「ぶ」であるものが基本的には対応します。「運ぶ」のように、終止形後尾が「ぶ」でありながら、該当しないものや、「畳む」のように、終止形語尾「む」でありながら該当するのもあります。それらは元々、動詞自体が互いに対応関係にないからです。

例文① 沖縄語では、日本語の目的を表わす助詞「を」に対応する語を用いませんので、「ちんし やまちぇえみせえん」となります。文語では「ゆ」を使う事があります。
例文③ 「衣のお」は「衣や」でも良いです。「衣」に付く係助詞は、語尾が「ん」ですので、「や」または「のお」となり、それぞれ「ちんや」、「ちのお」となります。ヤ系係助詞については、附録「ヤ系係助詞一覧」を参照。
 
 右の接続の別形は文例順に、
転だあま、転だあに、転だあい、飛だあま、飛だあに、飛だあい、たくだあま、たくだあに、たくだあい、浮かだあま、浮かだあに、浮かだあい、結だあま、結だあに、結だあい。

●バ行ブン・ディ動詞の例:呼ぶん(呼ぶ)、むたぶん(弄ぶ)、並ぶん(並ぶ)、滅ぶん(滅ぶ)等、概ね、日本語動詞の語尾が「-ぶ」となるものが対応します。

 
【応用問題】
 次の日本語文を沖縄語文になおしなさい。
①おばあさんも呼んで来てね。
②皆、そこに並んで、ごらん。
③琉球が滅んでも、琉球人は居る。
④あら、そんなにまで、この虫をもてあそんで。
⑤誰にも見られないように、忍んで来てちょうだい。

答え:
①婆前(はあめえ)ん呼(ゆ)でぃ、来(く)うよお。
②皆(んな)、くまんかい並(な)らでぃんでぃ(並《な》でんでぃ)。
③琉球(るうちゅう)ぬ滅(ふる)でぃん、琉球人や居(をぅ)ん。
④あい、あんすかなあんでぃん、うぬ虫(むし)むたでぃ
⑤誰(たあ)にん(誰なかいん)、見(ん)だらんねえし、忍(しぬ)でぃ、参(いも)り。(参れえ。めんそおり。)

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