比嘉清の文でおぼえるうちなあぐち

聴ち美らさ 語い美らさ 書ち美らさ 御万人ぬうちなあぐち

はいさい、ぐすうよう。いめんせえびり。 うちなあぐちの散文を丁寧文で実践している比嘉清です。 うちなあぐちへは散文から入るのも一つの手です。沖縄の団塊世代は日本語を学ぶのに100%近くが小学校の教科書から入りました。大きくなって発音の違いに苦労しましたが、長い目でみれば、今は文章から入ってよかったと思っています。

2011年05月

日本語

① 痒くても、頭は掻かないで。
② 人前では、お金の計算はしないで。
③ 親の脛をかじらないで。
④ 夜は爪は切らないで。
⑤ 背中は痛いから、揉まないで。
⑥ そんな事は言わないで。

うちなあぐち

① いい痒(ごう)さてぃん、頭(ちぶる)お、掻(か)くなけえ。(掻かんけえ
② 人(ちゅ)ぬ前(めえ)んじえ、銭(じん)ぬさんみんやすなけえ。(さんけえ
③ 親(をぅや)ぬむぬおかかじんなけえ。(かかじらんけえ
④ 夜(ゆる)お、爪(ちみ)え、詰(ち)みゆなけえ。(詰みらんけえ
⑤ 背中(ながに)え、痛(や)むくとぅ、みみぐなけえ。(みみがんけえ
⑥ うんな事(くと)お、言(ゆ)なけえ。(言《い》ゃんけえ、言《い》らんけえ

【解説】
 前講の禁止形に「けえ」を付ける場合の例です。多く使われる形であり、「けえ」は感情を表わす助詞の一つと考えられますが、元々は動詞語尾又は終助詞「き」と助詞「え」のニ語から成っている可能性もあります。文章語の「地の文」には基本的には、感情を表わす助詞等は使用しませんので、この形の文はどちらかといえば、「話し言葉における形」だと言えます。また例文の( )内のように、「否定の形」に「けえ」を付ける形も多く使用されています。民謡歌詞等ではまだ前者が優勢ですが、実際の会話では地域差を考慮しても( )内の例が優勢のような感じがします。

例文③ 「かかじんなけえ」の「ん」は「かかじゆなけえ」の「ゆ」が撥音便化したものです。
例文④ 「詰みゆなけえ」は「詰みゆん」の「ゆ」が撥音便化しない例です。
例文⑤ 「みみじゅん(揉む)」には「いじめる」の意味もあります。

●組踊における禁止形例:琉球語を基調とする組踊脚本でも、左記例のように統一されているわけではありませんが、その理由として、韻を踏む事(字数調整)を優先した事も一因であると考えられます。
大川敵討:「念遣(にんじぇけ)す(シ)るな」、「気遣(きじけぇ)す(シ)るな」、「勘違ひ(イ)す(シ)るな」、「言ふな」、「短気(たんち)す(シ)るな」、「油断(ゆだん)す(シ)るな」等。
銘苅子:「ど(ドゥ)く泣くな」、「足(あし)まろびす(シ)るな」、「油断すな」、「友(どぅし)む(ム)つれ(チリ)す(シ)るな」、「気遣ばす(シ)るな」等。
護佐丸敵討:「油断するな」
執心鐘入:「麁相(すそ)ども(ドゥン)思(うむ)ふ(ウ)な」、「油断す(シ)るな」、「沙汰(さた)も(ン)す(シ)るな」、「気にかかて(ティ)いくな」、「わ身(み)も(ン)怨(うら)みるな」等。
女物狂:「無理になばくるな」、「約束(やくすく)よ(ユ)違(たご)ふ(ウ)な」、「偽(いちわい)り(イ)よ(ユ)す(シ)るな」、「この(クヌ)世(ゆ)までと(マディトゥ)思(む)な」等。
万歳敵討:「我(わ)が名(な)ども(ドゥン)言(ゆ)ふ(ウ)な」等。

 
【応用問題】
 次の禁止形文を「けえ」を使う文に直し、さらに「否定形+けえ」の文に直しなさい。
① うぬ事(くと)お、はっぷがす
② 今日(ちゅう)やわじん
③ むんじゅる平笠(ふぃらがさ)被(かぶ)るよ。(古典「ムンジュル節」)
④ いそうさぬばあやわじゃむ
答え:
① うぬ事お、はっぷがすなけえ(はっぷがさんけえ)。
② 今日やわじんなけえ。(わじらんけえ
③ むんじゅる平笠被るなけえ。(被んだんけえ
④ いそうさぬばあやわじゃむなけえ。(わじゃまんけえ)。

日本語意訳:
①その事は暴露しないで。
②今日は怒らないで。
③ムンジュル平笠は被るな。
④うれしい時はしかめっ面をしないで。

日本語

① 手だけは、縛るな。
② あの人は、呼ぶな。
③ 箒では、掃くな。
④ この海岸は、危ないから、泳ぐな。
⑤ 夫婦喧嘩はするな。

うちなあぐち

① 手(てぃい)びけんや、縛(たば)る
② あぬっ人(ちゅ)お、呼(ゆ)ぶ
③ 箒(ほうち)しえ、掃(ほ)うく
④ くぬ海端(うみばた)あ、うかあさくとぅ、泳(ゐい)ぐ
⑤ 夫婦(みいとぅんだ)煽合(おおええ)や、す。(「煽合については第97講の「註」参考」)

【解説】
 動詞活用の形の中でも禁止の形は、日本語の禁止の形に近いといえます。禁止を表わす終助詞(副詞とする説もある)「な」自体が同じです。但し実際は、動詞によって、幾つかの変形があります。例えば、「とぅ取な」は、実際は「とぅ取んな」、「とぅ取るな」という言い方の方が優勢です。「すな(するな)」も「するな(古くは『しるな』)」の言い方もあります。これらが日本語の影響なのか、あるいは 一部の地方の言い方が広まったものかはっきりしません。
 また、ここで紹介した禁止形に、口語では、さらに終助詞「けえ」のついた「―すなけえ」の言い方に倣い、否定を表わす形に助詞(副詞説あり)「けえ」をつける「取らんけえ」という言い方も優勢です。この形は今や動詞の一つの形として無視できません(第58講参考)。この「けえ」については次講参照。

文例③ 「箒しえ」は「箒なかいや」とも言います。
文例⑤ 「すん」は首里語では「しゅん」です。「夫婦」を表わす「みいとぅんだ」と兄弟姉妹を指す「うとぅざんだ」(又は、「うとぅだんだ」)の語尾部分「んだ」は「一対」または「親密な組み合わせ」を表わす語だと考えられます。
その他の動詞の例は次の応用問題をご参照ください。

  
【応用問題】
 次の沖縄語文の( )内の動詞を禁止の形に直しなさい。
① ちゃっさ、皮(かあ)ぬゐいごうさてぃん、(掻《か》ちゅん)。
② 井水(かあみじ)え、うぬまあまあや、(飲《ぬ》むん、註)。
③ 酒(さき)え、飲(ぬ)でぃん、煙草(たばく)お、(吹《ふ》ちゅん)。
④ くぬ包丁(ほうちゃあ)や、鈍(なま)りてぃん、今(なま)あ、(研《とぅ》じゅん)。
⑤ なましばい(註)ぬ出(ん)じとおるばあや、(しだすん)。

① ちゃっさ、皮ぬゐいごうさてぃん、掻く
② 井水え、うぬまあまあや、飲む
③ 酒え、飲でぃん、煙草お、吹く
④ くぬ包丁や、鈍りてぃん、今あ、研ぐ
⑤ なましばいぬ出じとおるばあや、しだす(註)。

註:「飲むん」は首里語では「飲ぬん」。「なましばい」は「脂汗」。「しだすん」は「磨く、化粧する」等の意味。

日本語意訳:
①いくら、皮膚が痒くても掻くな。
②井戸水はそのままでは飲むな。
③酒は飲んでも煙草は吸うな。
④この包丁は鈍っても、今は研ぐな。
⑤脂汗をかいているときは化粧するな。

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