比嘉清の文でおぼえるうちなあぐち

聴ち美らさ 語い美らさ 書ち美らさ 御万人ぬうちなあぐち

はいさい、ぐすうよう。いめんせえびり。 うちなあぐちの散文を丁寧文で実践している比嘉清です。 うちなあぐちへは散文から入るのも一つの手です。沖縄の団塊世代は日本語を学ぶのに100%近くが小学校の教科書から入りました。大きくなって発音の違いに苦労しましたが、長い目でみれば、今は文章から入ってよかったと思っています。

2011年09月

日本語

① 砂浜ではガラス片が危ないから裸足にならなかった。
② 孫の家には、手ぶらでは行けなかった。
③ ゴルフ仲間は雷が鳴っても、逃げなかった。
④ 夜中に熱を出したが、何でもなかった。
⑤ 呼んだけど、誰もいらしゃらなかった。
⑥ 腹が減っていましたが、何も食べませんでした。
⑦ 昔は真昼間には、何もなさらなかった。
⑧ 低姿勢で頼んでも、聞いていただけなかった。
⑨ 伯母は、体をゆすっても、起きませんでした。
⑩ 先に点を取られても動揺しなかった。

うちなあぐち

⑪ 砂浜(しなはま)んじえ玉(たま)ぬ割(わり)ぬうかあさぬ空足(からびさあ、からびしゃあ)さんたん
⑫ 孫(んまが)ぬ家(やあ)んかいや、空胴(んなどぅう)しえ、行(い)からんたん
⑬ ゴルフしんかあ、雷(がんない)ぬ鳴(な)てぃん、逃(ふぃん)ぎらんたん
⑭ 夜中(ゆなか)、熱出(にち)じゃちょおたしが、何(ぬう)んあらんたん
⑮ 呼(ゆ)だしが、誰(たあ)んもうらんたん
⑯ やあさそおいびいたしが、何(ぬう)ん、食(か)なびらんたん
⑰ 昔(んかし)え、まあふっくぁんじえ、何(ぬう)んしんそおらんたん
⑱ 折(をぅり)り倒(とお)りしん、聞(ち)らたぼうらんたん
⑲ 伯母(をぅば)まあや胴(どぅう)をぅうてぃん、起(う)きみそおらんたん
⑳ 先(さち)に点取(てぃんとぅ)らってぃん、肝(ちむ)お、あまがんたん

【解説】
 否定文の過去表現には、動詞や助動詞の種類に関係なく、直接過去と間接過去の別はありません。
 否定文の過去は否定文(未然形+否定や打消を表わす助動詞「ん」)に過去を表わす助動詞「たん」が付く形となります。
 直接的な動作を表わす動詞の過去には直接過去と間接過去の別がありますが、存在状態を表わす存在動詞や、形容詞(第80~87講)の過去についても直接過去と間接過去の別はありません。
 そこで、次のように纏める事ができます。

●能動的動作を表わす動詞には直接過去と間接過去の別がある。非能動的動詞(「あん」、「居ん」等)にはその別がない。
●単に状態を表わす存在動詞、形容詞の場合は直接過去と間接過去の別はない(但し、形の上では間接過去)。
●否定文は動作が行なわれなかった事を表わすものであるから直接過去と間接過去の別はない。
 以上から、直接過去表現は「能動過去」、間接過去は「状態過去」又は「客観過去」だとも言えます。
例文② 「空(んな)胴(どぅう、るう)」は「何も持たない」という意味の慣用句で「空の体」という意味ではありません。

例文⑧ 「折(うう)り倒(とお)り」は「頭を折り腰を倒し」等の意味で、頼み事や物乞いをしたりする卑屈な様を表わす言葉。
例文⑩ 「あまじゅん」は人に対する場合は「動揺する」、植物や物に対する場合は「揺れる」の意味。

【応用問題】
 次の文を否定過去文に直しなさい(意味的に動詞のみ直すわけではありません)。
① 我ねえ、ミリキン粉、ああちゃん。
② 恩納ナビイや森ん押し退きらんでぃさん。
③ 肌着しぶいびけえ着ち、鼻しち成たん。
④ 流りゆる水に、桜花浮きたん。
⑤ 汝っ達母や、子びちいやん。
答え:
① 我(わん)ねえ、ミリキン粉(ぐう)、ああさんたん。
② 恩納(うんな)ナビイや、森(むい)押(う)し退(ぬ)きらんたん
③ 肌(はだ)しぶいびけえ、着(ち)ちん、鼻(はな)しち成(な)らんたん
④ 流(なが)りゆる水(みじ)に桜花(さくらばな)浮(う)きらんたん
⑤ 汝(い)っ達(たあ)母(あんまあ)や子(くぁ)びちいあらんたん

日本語意訳:
①私はメリケン粉を練らなかった。
②恩納ナビは森を押しのけようとしなかった。
③肌着だけ着けても風邪をひかなかった。
④流れる水に桜花を浮けなかった。
⑤あなたがたのお母さんは親ばか(子びいき)でなかった。

日本語

① お婆さんは三味線が鳴ったら、踊りました。
② 父も三味線が鳴ったので、踊りました。
③ おじいさんも御祝いしにいらっしゃいました。
④ 先生も集会にいらっしゃいました。
⑤ あのお方が学問を教えてくださいました。
⑥ 聴衆は私の言うことを聞いて呉れました。
⑦ あなた方のお母さんはお元気でしたよね。
⑧ 私の叔父は、以前は医者でいらっしゃいました。

うちなあぐち

① ぱあぱあや、三味線(さんしん)ぬ鳴(な)たれえ、舞(もう)いみそおちゃん。直
② 父(すう)ん三味線ぬ鳴たくとぅ舞いみせえ(い)たん。間
③ 御主前(うすめえ、うしゅめえ)ん、祝儀(しゅうじ、すうじ)しいが、もうちゃん。直
④ 先生(しんしい)ん、揃(すり)いんかい、もういたん(もうゆたん)。間
⑤ あぬっ人(ちゅ)ぬ墨習(しみなら)あち、うたびみそおちゃん。直
⑥ ぐすうようや、我(わあ)が言(ゆ)し聴(ち)ちうたびみせえたん。間
⑦ 汝(い)っ達(たあ)母(あんまあ)や、かなっとおみせえたんどおやあ。間
⑧ 我(わ)っ達(たあ)叔父(をぅざ)さあや、前(めえ)や、医者(いしゃ)やらりいたん。間

【解説】
 目上語の直接過去と間接過去の形です。使い方は通常の動詞における場合と同じように、「意味的」に使い分けます。
 なお、「呉ゆん」の目上語である「たぼうゆん」は、実際には接続態、命令形、未然形(否定文など)以外は殆ど用いられませので、例文表示はしていませんが、直接過去は「たぼうたん」、間接過去は「たぼうゆたん(たぼういたん)」となります。
 また、「たびゆん(賜う)」も文語のみで、使用例は殆どない事から、例文表示はしていませんが、直接過去は「たびたん」、間接過去は「たびゆたん」となります。

例文① 目上語「みせえん」の場合の例。みせえん(終止形)、みせえたん(直接)、みせえいたん(間接)
例文②「もうゆん(もういん)」の場合の例。もうゆん(もういん)、もうちゃん、もうゆたん(もういたん)。
例文⑤「うたびみせえん」の場合の例。うたびみせえん、うたびみそうちゃん、うたびみせえ(い)たん。
例文⑦「やみせえん」は存在動詞「やん」の連用形「や」に「みせえん」が付いた形です。「みせえん」自体には直接過去と間接過去の別がありますが、存在動詞が主ですので見かけ上は間接過去のみとなります。
例文⑧「やらりいん」の意味は「やみせえん」と同じ。存在動詞「やん」の連用形に目上語「らりいん」が付いたものです。都市部では用いられてないようです。存在動詞が主ですので直接過去と間接過去の別はありません。なお、「をぅざさあ(「伯叔父」)の呼びかけ言葉は「うんちゅう」、「うふうんちゅう(伯父)」、「うんちゅうぐぁあ(叔父)」等。
  
【応用問題】
 次の間接過去を直接過去に直しなさい。不可の場合はその旨、記しなさい。
① 我(わ)っ達(たあ)うじふじ御主前(うしゅめえ)や、武士(ぶし)やみせえたんどお。
② 社長や皆(んな)んかい高手間(たかでぃま)呉(くぃ)てぃうたびせえたん
③ 姉(あばあ)がまあさコーヒー支(し)しこうてぃ、呉(くぃ)みせえたん
④ 婆前(はあめえ)や、ゆかいうっさ、歩(あ)っちみせえたさ。
⑤ 父(すう)友(どぅし)ん達(ちゃあ)ぬ、いちゃっさきい、もうゆたん
答え:
① 不可(主な動詞が存在動詞なので)
② うたびみそうちゃん。
③ 呉みそおちゃん。
④ 歩っちみそおちゃさ。
⑤ もうちゃん。

日本語訳:①私達の従祖父は腕利きでいらっしゃいましたよ。②社長は皆に高給を支給なさいました。③姉がおいしいコーヒーをつくってくれました。④おばあさんはかなり歩かれましたよ。⑤父の友だちも大勢いらっしゃいました。

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