比嘉清の文でおぼえるうちなあぐち

聴ち美らさ 語い美らさ 書ち美らさ 御万人ぬうちなあぐち

はいさい、ぐすうよう。いめんせえびり。 うちなあぐちの散文を丁寧文で実践している比嘉清です。 うちなあぐちへは散文から入るのも一つの手です。沖縄の団塊世代は日本語を学ぶのに100%近くが小学校の教科書から入りました。大きくなって発音の違いに苦労しましたが、長い目でみれば、今は文章から入ってよかったと思っています。

2011年11月

日本語

① 父は今はもう、働いてない。(ないです)
② 父は今はもう、働いていない。(いません)
③ お祝い用の御馳走はまだ、作ってない。
④ お祝い用の御馳走はまだ、作っていない。
⑤ 祖父はもう、農業はしてない。
⑥ 祖父はもう、農業はしていない。
⑦ あの子はどこも怪我してないよ。
⑧ あの子はどこも怪我していないよ。(いないなあ)
⑨ まだ、何も決めてないわけよ。
⑩ まだ、何も決めていないけど。(いないけどねえ)

うちなあぐち

① 父(すう)や、今(なま)あ、なあ、働(はたら)ちぇえ無(ね)えらん。(無えやびらん
② 父や今あ、なあ、働ちぇえ居(をぅ)らん。(居いびらん
③ 祝儀(しゅうじ、すうじ)ぐぁっちいや、なあだ、すがてえ無(ね)えらん
④ 祝儀ぐぁっちいや、なあだ、すがてえ居らん
⑤ 御主前(うすめえ、うしゅめえ)や、なあ、畑(はる)お、しえ無(ね)えらん
⑥ 御主前や、なあ、畑お、せしえ居(をぅ)らん
⑦ あぬ童(わらび)え、まあん、痛(や)まちぇえ無えらんどお。
⑧ あぬ童えまあん、痛まちぇえ居らんさ。(居らんさあ)
⑨ なあだ何(ぬう)ん決(ち)わみてえ無(ね)えらんばあてえ。
⑩ なあだ何ん決わみてえ居(をぅ)らんしが。(居らんしがやあ)

【解説】
 言い切り形が「―おん」で表わされる進行形は、「動詞接続態(補助連用形、以下同じ)」+をぅ居ん」から発達してきたのもので、同じく言い切り形が、「―えん」で表わされる完了保存(第69講)は、「動詞接続態(補助連用形)+あん」の形から発達してきたものと思われます。
 その否定文は何れも、「動詞接続態+ヤ系係助詞の『え』+ね無えらん(または『無えん』)」あるいは、「動詞接続態+ヤ系係助詞『え』+をぅ居らん」で表わします。
 進行形は「―居ん」の否定であるから、「―居らん」、また、完了保存は「―在ん」の否定であるから、「―無えらん(無えん)」なのではないかと考えられがちですが、実際には、両者は表記上の差異ほど意味的差異は無く、何れを用いてもかまいません。理屈よりも実際です。なお、この文の丁寧文は例文①、②の( )内の通りです。

文例③ 「御主前」(祖父)の事を士族語では「たんめえ」ですが、首里近辺では「ぷうぷう」との呼称もあったようです。

【応用問題】
 次の文を否定文かつ丁寧文にしなさい。必要な場合は適当な語を挿入しなさい。
① 十五夜ぬ月ぬ、ぬしかとおん。
② 我ねえ妻とぅめえてえん。
③ あぬ人お年取てぃ、うてぃ返とおん
④ 赤ん子寝んしてえんどお。
⑤ あぬ二才や女んかい手ぬしきとおん。
答え:
① 十五夜(じゅうぐや)ぬ月(ちち)え、なあだ、ぬしかてえ無(ね)えやびらん(居《をぅ》いびらん)
② 我(わん)ねえ、妻(とぅじ)え、とぅめえてえ、無(ね)えやびらん(居《をぅ》いびらん)
③ あぬっ人(ちゅ)お、年取(とぅしとぅ)てぃん、うてぃ返(けえ)えてえ無(ね)えやびらん(居《をぅ》いびらん)
④ 赤(あか)ん子(ぐぁ)、なあだ、寝(に)んしてえ無(ね)えやびらんどお(居《をぅ》いびらんどお)
⑤ あぬ二才(にいせえ)や女(ゐなぐ)んかい、手(てぃい)ぬしきてえ無(ね)えやびらん(居《をぅ》いびらん)

日本語意訳:
①十五夜の月はまだ、出ていません。
②私は結婚していません。
③あの人は年とっても、子供返りをしていません。
④赤子をまだ、寝かしてないです。
⑤あの青年は女に、ちょっかいを出していません。

日本語

① 父さん、豆腐チャンプルーを炒めてあるよ。
  父さん、豆腐チャンプルーを炒めてあったよ。
② 大事なものは箪笥に隠してある。
  大事なものは箪笥に隠してあった。
③ 庭の掃き掃除はしてある。
  庭の掃き掃除はしてあった。
④ 子供たちのオモチャは机の上に置いてある。
  子供たちのオモチャは机の上に置いてあった。
⑤ 美味しいものは、とっくに、食べてしまっているさ。
  美味しいものは、とっくに、食べてしまっていたさ。

うちなあぐち

① 父(すう)、豆腐(とうふ)チャンプルー、炒(いり)ちぇえんどお。
  父、豆腐チャンプルー、炒ちぇえたんどお。
② あたらさるむぬお箪笥(たんし)んかい隠(くぁっくぁ)ちぇえん
  あたらさるむのぬお箪笥んかい隠ちぇえたん
③ 庭(なあ)ぬ掃(ほ)うちかちえ、せえん
  庭ぬ掃うちかちえ、せえたん
④ 童(わら)ん達(ちゃあ)ぬ得(い)いりむぬお机(しく)ぬ上(ゐい)んかい置(う)ちぇえん
  童ん達ぬ得いりむのぬお机ぬ上んかい置ちぇえたん
⑤ まあさむのぬお、きっさ、うちゅ食(くぁ)てさ。
  まあさむのぬお、きっさ、うちゅ食てえたさ。

【解説】
 完了した動作の結果が持続している様子を表現する「―せえん(―せえいびいん)」は日本語の「―している(―しています)」にほぼ対応します。この文形は主には、意味的に成立する他動詞に使われますが、話者の感覚により、意味的に成立する場合は自動詞にも使われる場合もあります。
 進行形が動作の進行を表わすのに対し、完了保存は動作は終了しているが、その結果や影響が持続している事を表わします。「動詞接続形(補助連用形)+あん」の形から発達してきたものと思われます。なお、完了保存の過去文には進行形同様、直接過去と間接過去の別はありません。

例文① 右の文が完了保存で、左の文が完了保存過去です(以下同じ)。炒りちゅん(終止形)、炒りちょおん(進行形)、炒りちぇえん(完了保存)、炒ちぇえたん(完了保存過去)。以下同じ順に表示します。
例文② 隠すん、隠ちょおん、隠ちぇえん、隠ちぇえたん。「隠すん」は「隠す」、「隠(かく)すん」は「秘密にする」の意味。
例文③ 掃うちかちすん、掃うちかちそおん、掃うちかちせえん、掃うちかちせえたん。
例文④ 置ちゅん、置ちょおん、置ちぇえん、置ちぇえたん。「得いりむん」は「貰い物」や「おもちゃ」の意味。
例文⑤ うちゅ食ゆん、うちゅ食とおん、うちゅ食てえん、うちゅ食てえたん。「うちゅ食てえん」の「うちゅ」は、「―してしまう」を表わす接頭語で、他に「食むん」、「飲むん」等に対して使います。

 
【応用問題】
 次の文を過去文に直しなさい。
① 仕事え、とぅずみてえんどお。
② なちょうら、煎じてえくとぅ、飲みよお。
③ 運転免許やれえ、取てえしが。
④ 熱え、冷まちぇえさ。
答え:
① 仕事(しくち)え、とぅずみてえたんどお。
② なっちょうら(*)、煎(し)じてえたくとぅ、飲(ぬ)みよお。
③ 運転免許(うんてぃんみんちょ)やれえ、取(とぅ)てえたしが。
④ 熱(にち)え、冷(さま)ちぇえたさ。

日本語意訳:
①仕事は終わらせてあるよ。
②海人草を煎じてあったから、飲んでね。
③運転免許なら、取ってあったけど。
④熱は冷ましてあったさ。(*「なちょおら」は虫下しの薬となります)

日本語

① 姉さんは一日中、着飾っています。
  姉さんは一日中、着飾っていました。
② サトウキビの葉が燃えて、煙っています。
  サトウキビの葉が燃えて、煙っていました。
③ あそこの井戸の水は濁っています。
  あそこの井戸の水は濁っていました。
④ 暑いけど、長い時間、我慢しています。
  暑いけど、長い時間、我慢していました。
⑤ あの畑は耕さないから、荒れてしまっています。
  あの畑は耕さないから、荒れてしまっていました。

うちなあぐち

① 姉(あばあ)やふぃっちい、美(ちゅ)らすがいみそうちょおん
  姉やふぃっちい、美らすがいみそうちょおたん
② をぅうじ葉(ばあ)ぬ燃(め)えてぃ、煙(きぶ)とおいびいん
  をぅうじ葉ぬ燃えてぃ、煙とおびいたん
③ あまぬ井戸水(かあみじ)え、みんぐぃとおいびん
  あまぬ井戸水え、みんぐぃとおいびいたん
④ 暑(あち)さしが、長(なげ)えさ、にじとおいびいん
  暑さしが、長えさ、にじとおいびいたん
⑤ あぬ畑(はる)おくなさんくとぅ、さぼうりとおいびいん
  あぬ畑おくなさんくとぅ、さぼうりとおいびいたん

【解説】進行形とその過去形の丁寧および目上語の形です。例文は文型を比較しやすくするために、丁寧及び目上語以外は前講と同じにしました。
例文① 右の文が進行形の目上文で、左の文が過去進行形の目上文です。なお、この文型には次の通り、別形があります。例文順に、ちゅらすがいしんそうちょおん。ちゅらすがいしんそうちょおたん。ちゅらすがいそおみせえん。ちゅらすがいそおみせ(い)えたん。また、( )内の「い」は略される傾向にあります。
例文② 右の文が進行形の丁寧文で、左が過去進行形の丁寧文です。以下同様です。

  
【応用問題】
 次の文を丁寧又は目上語文に直しなさい。
① 汝っ達や、新聞のお何取とおが。
② 我っ達や、琉球新報ん沖縄タイムスん取とおん。
③ たんかあぬ兄や七十余てぃん、仕事歩っちょおん。
④ 夏え暑さくとぅ、家ぬ戸お諸わい開きらっとおん。
⑤ 夕陰成たれえ、風え凪りとおん。
答え:
① 汝(い)っ達(たあ)や新聞(しんぶ)のお何取(ぬうとぅ)とおみせえ(いびいが)が。
② わ我っ達や琉球新報ん沖縄タイムスん取(とぅ)とおいびいん。
③ たんかあぬ兄(やっちい)や七十余(ななじゅうあま)てぃん、仕事(しくち)歩(あ)ちょおみせえ(いびい)ん。別形:歩っちみそうちょおん。
④ 夏(なち・)え暑(あち)さくとぅ、家(やあ)ぬ戸(はしる・)お諸(むる)わい開(あ)きらっとおいびいん。
⑤ 夕(ゆう)陰(かあぎ)(註)成(な)たれえ、風(かじ・)え凪(とぅ)りとおいびいん。

日本語意訳:
①あなたたちは、どの新聞を購読なさっていますか。
②私たちは新報もタイムスも購読しています。
③向かいのお兄さんは七十歳過ぎてもお仕事をなさっています。
④夏は暑いから、家の戸という戸を開けっぴろげにしています。
⑤夕方になったら、風は凪いでいます。

註:「夕陰」は日が西に傾いて、辺りが家屋等の構造物や木々等の陰に覆われて涼しくなる時間帯の事。「夕方(ゆうさんでぃ、ゆさんでぃ)」が単に時間帯を表わすのに対し、「夕陰」は視覚的表現です。したがって、「夕方」とは時間的には必ずしも一致するわけではありません。

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