日本語

① 私は東京には、行かなかったけど。
② 妹は食事を作った事がないのだけどね。
③ 未だに、親の脛を齧った事等なかったのに。
④ 君さえよければ、私も良いのだけど。
⑤ 家で良い塩梅で、休んでいるのだけど。

うちなあぐち

① 我(わん)ねえ、東京(とうちょう)んかいや、行(い)かんたしがる
② 妹(うっと)お物(むぬ)お、すがてえんだんしがるや。
③ 未(なあ)だ如(ぐとぅ)、親(をぅや)ぬ物(むぬ)お、かかじてえんだんたしがどぅ
④ 汝(やあ)がんちょおん、済(し)むれえ、我(わん)にん、済(し)むしがる
⑤ 家(やあ)んじ、良(い)塩梅(いあんべえ、やんべえ)し、憩(ゆく)てぃる居(をぅ)しがる

【解説】
 「―しが」(第16講参考)の「が」は逆接を表わす助詞で、それに強調を表わす助詞「どぅ(またはその清音である「る」)が付いた形の文です。後続すべき逆接文は付かずに言い切る形で用いられます。したがって、「どぅ、る」を用いているにも係わらず、係り結び文としては不完全ですが、慣用的に「―だのに、―だけど」という意味の文として用いられています。

例文② 「妹」も「弟」も「うっとぅ」と言います。「女弟(ゐなぐうっとぅ)」とも言います。なお、「弟うない(うっとぅうない)」。「思弟(うみっとぅ、うみうっとぅう)」、「弟うない=弟姉妹」、「うない(姉妹)」等は士族等が使った語で現代語口語ではもう耳にしません。(参考話題「妹と豚」71頁)
例文⑤ 「居ん」は古くは「居ゆん」(「組踊」等)と、きれいなラ行ユン・ティ活動でしたが、現在は変形して「居(をぅ)ん」になっています。

  
【応用問題】
 次の沖縄語を文末に強調助詞を使う表現に直しなさい。
① 我(わん)ねえ、大阪(ううざか)んかいや、行(ん)じぇえんだんたるむぬ。
② なあだ如(ぐとぅ)、負(ま)かちゃえ、んだんたん。
③ いちゃんだん、喧嘩(おおええ)(註)すぬむぬおあらんしが。
④ ないれえ、薬(くすい)や、飲(ぬ)まんしえましやしが。
⑤ いごうさてぃん、掻(か)かんしえましやる筈(はじ)。
答え:
① 我ねえ、大阪んかいや行じぇえんだんたしがる(がどぅ)
② なあだ如、負かちぇえ、んだんたしがる(がどぅ)
③ いちゃんだん、喧嘩するむぬおあらんしがる(がどぅ)
④ ないれえ、薬や、飲まんしえましやしがる(がどぅ)
⑤ いい痒さてぃん、掻かんしえましやしがる(がどぅ)
  
日本語意訳:
①私は東京には行った事がないのだけど。
②いまだに、勝った事はなかったのに。
③やたらと、喧嘩するものではないのだが。
④できれば、薬は飲まない方がよいのだけど。
⑤痒くても、掻かない方がよいのだが。
  
註:「喧嘩」を意味する「おおええ」の動詞は「おおゆん」(又「おおいん」)です。
 開音としての「あお(青)」は轟音「おお」に、同じく「あふれ(オモロ語)」は「おおり(八重山語の『お出で』)」に、同じく「たうたう」が「とうとう(感嘆詞)」になるように、古くはア段音はオ段音の開音でした。
 またオ段音がウ段音の開音である事や語尾を「る」とする日本語動詞は殆どがラ行ユン・ティ動詞になる事を考え合わせると、「あおる」は「おうゆん(けんかする)」となります。また、「おおええ」の「ええ」の開音は概ね「あい」ですので、「おおええ」は「煽合え」又は「煽合」と当てる事ができます。つまり「おおええ喧嘩」は「おおええ煽合」からの転用だと思われます。