比嘉清の文でおぼえるうちなあぐち

聴ち美らさ 語い美らさ 書ち美らさ 御万人ぬうちなあぐち

はいさい、ぐすうよう。いめんせえびり。 うちなあぐちの散文を丁寧文で実践している比嘉清です。 うちなあぐちへは散文から入るのも一つの手です。沖縄の団塊世代は日本語を学ぶのに100%近くが小学校の教科書から入りました。大きくなって発音の違いに苦労しましたが、長い目でみれば、今は文章から入ってよかったと思っています。

2014年02月

うちなあぐち

① 子(くぁ)大和(やまとぅ)んかい遣(や)らちゃしが如何(ちゃあ)がそおら肝(ちむ)ん肝ならぬ。
② うんじゅが歌聴(うたち)ちいねえ、肝潤(ちむうら)らきらりゆさ
③ 哀(あわ)りそおる人(ちゅ)ん達(ちゃあ)んかい肝呉(ちみくぃ)てぃ取(とぅ)らしよおやあ
肝(ちむ)ふずる迄(までぃ)、食(か)でぃん済(し)むんどおやあ、童(わら)ん達(ちゃあ)。
⑤ 彼(あり)ぬ事聞(くとぅち)ちいねえ、肝(ちむ)あまじし、物(むぬ)ん食(か)まらんむん。
⑥ でぃか、まじゅん、酒小(さきぐぁあ)やてぃん飲(ぬ)でぃ、肝直(ちむのお)さな
⑦ 女(ゐなぐ・)お子(くぁ)ぬ居(をぅ)らんなてぃから今(なま)ちきてぃ、肝抱(ちむだ)ちょおん

日本語

① 子を本土に行かしたが、どうしているのかしのびない
② あなたの歌を聴けば、心が癒されるよ
③ 哀れな人々に哀れんでおくれよね。
満足するまで食べて良いよ、子供たち。
⑤ 彼の事を聞けば、動揺し、飯も喉をとおらないのだ。
⑥ さあ、ちょっと酒でも飲んで、機嫌を直そうではないか。
⑦ 女は子を失ってから、いまだに悲しみに呉れている

【解説】
 「肝」は「肝臓」、「食べ物としての肝臓」としての意味の他、「心、心情、情け、精神」という意味があります。「心(くくる)」も同じ意味を持ちますが、「肝」の方が多く使われます。その関連句は「肝語」と称される事があります。「肝語」は他の慣用句・言い回しより数が群を抜いて多いです。これも琉球民族の心情の反映なのでしょうか。

例文① 最近は「肝ん肝ならぬ」は「肝ん肝ならん」が普通です。「心が落ち着かない」、「心も心にならない」等の意味があります。「大和」は「薩摩」を意味し、日本全体は「大大和(うふやまとぅ)」とされていますが、ここでは古い『辞書(沖縄語辞典等)』にこだわらず、使用実態に重きを置き、「日本本土」という意味で使用します。
例文② 例文の句は「心を洗い流す、洗い清める」等の意味です。「うらあきゆん」は単独では「水に浸す」、「潤す」等の意味です。
例文③ 例文の句に日本語訳は「情を掛ける」の意味でもよいのですが、その逆訳である慣用句の「情掛きゆん」よりはもっと重みが感じられます。
例文④ 「肝ふじゅん」の「ふじゅん」は例文にある句のみに用いられ、単独では用いられません。
例文⑤ 「あまじゅん」は、「揺れ動く」等の意味です。「愛の雨傘」という民謡の歌詞に「我肝(わちむ)あまがする悪魔女(あくまゐなぐ)(私の心を動揺させる悪戯女)」というのがあります。
例文⑦ 「居らんなゆん」は「居なくなる」ですが、慣用的に「死なれる、(失う)」の意味にも使われます。『沖縄語辞典』にはその意味の慣用句としてはありません。また、「肝抱かりゆん」と受動態にすると、「悲しみに閉ざされる」等の意味となります。

【応用問題】
次の文を日本文に直しなさい(意訳でもよいです)。
① 婆前(はあめえ)や肝抱(ちむだ)かってぃ、物(むぬ)考(かんげ)えんならんなとおん。
② 諸(むる)が肝(ちむ)ふじゅんねえし、配(は)じ取(とぅ)らさんなあ。
③ 初(はじ)み(め)え、肝(ちむ)あまじさしが、半(なか)らから慣(な)りてぃちゃん。
④ 人(ちゅ)ぬ事思(くとぅうむ)ゆる肝(ちむ)ぬあれえ、肝呉(くぃ)ゆる事(くとぅ)んなゆん。
⑤ 孫(んまが)ん達(ちゃあ)とぅ遊(あし)びいねえ、肝(ちむ)どぅうらあきらりゆる

答え:
① お婆さんは悲しみ暮れて、頭も混乱してしまっている。
② 全員が満足のいくように分配してくれないかね。
③ 最初は動揺したが、途中から慣れてきた。
④ 人の事を考える心があれば、人を哀れむ事もできる。
⑤孫たちと遊べば、心も清らかになれる(意訳)。

うちなあぐち

① 着物(ちん・)のお、くまんかい掛(か)きとけえ
② 庭(なあ)ぬ花(はな)んかいん、水(みじ)掛(か)きらい
③ 銭賭(じんか)きてぃ、勝負(しゅうぶ)そおん。
④ あまくま掛きてぃ、なあ、うたとおさ。
⑤ 沖縄(うちなあ)や大和(やまとぅ)なかい掛きらっとおん
⑥ 書ちかきたれえ、後(あと)お、さあらないなたん。
⑦ 秤(はかい)かきれえ、重(うぶ)さぬ分(わ)かゆさ。

日本語

① 着物はここに掛けておけ
② 庭の花に水を掛けようね
③ 金を賭けて勝負している。
④ あちこち掛け持ちして、もう疲れたよ。
⑤ 沖縄は日本に支配されている
⑥ 書き始めたら、後は、スムーズにいった。
⑦ 秤にかけると、重さが分かるよ。

【解説】
 「かきゆん」が前講の「かかゆん」と同じように多くの意味を持っている事は、これらに対応する「かく、かける」や「かかる」日本語も場合も同じです。「電話かきゆん」等と日本語同様に転用も進んでいます。ここでは、代表的な意味と特に留意したい意味の例文を紹介するに止めます。とりわけ例文⑤における「支配する」という意味としては沖縄語独自の意味あるいは転用ではないかと思われます。
 中国との冊封関係の無かった日本語が漢語を取り込む事によって強固な日本語を作り上げる一方、漢語(註1)に依存する「体質」になっていったのに対し、冊封関係のあった琉球の言語の方が漢語より「手持ちの言葉」を転用しながら、独自の発展を遂げていった様子が垣間見えます。

例文①、② 「かきゆん」の一般的な使用例です。
例文③ ここでは「掛きゆん」と「賭きゆん」の意味は転用関係にあるとして、「同一」に扱っています。
例文④ 日本語では「掛け持つ」となりますが、沖縄語では、そのまま「かきゆん」であり、「掛き持ちゅん」という句は使いません。
例文⑤ 「かきゆん」には「支配する」、「統治する」、「領有する」等の意味があります。
例文⑥ 「-(し)始めている」という意味を持つ事は日本語も同じです。
例文⑦ 「秤かきゆん」は「秤にかける」、「量る」の意味です。慣用句として覚えたいです。

  
【応用問題】
次の文を日本語に直しなさい。
① 大国(たいぐく)(註2)ぬ弥勒(みるく)、沖縄(うちなあ)にいもち御掛(うか)き栄(ぶ)さみしょり。
② 今(なま)あ離(はなり)りえ、橋(はし)ぬかきらってぃ、渡(わた)い易(や)っさなとおん。
③ 昼寝(ふぃんに)そおる童んかい、着物掛(ちんか)きとおけえ、あんまあ。
④ 妻(とぅじ)んかい情掛(なさきか)きらんたる事(くとぅ)がる肝掛(ちむが)かいやる。
⑤ ちゃあ、値(でえ)や掛きらっとおんでぃ思(うむ)ゆし(せ)えまし。

答え:
① 大国の弥勒様、沖縄にいらっしゃって、お治めくだされ。
② 今は離島は橋が掛けられ渡り易くなっている。
③ 昼寝している子供に着物を掛けておいて、。
④ 妻に情けを掛けなかった事こそ気掛かりなのだ。
⑤ 殆ど、値段は掛け値だと思っていた方が良い(意訳)。

註1 琉球語と日本語の違いはさて置き、筆者は漢語肯定派です。私見では漢字は人類が生み出した文字の中では最も文明の香りがします。象形文字から発展し、画数こそ複雑ですが、その分、文字の意味が深いので文は簡潔で済みます。それに造語力は他の文字を圧倒しており、和製漢語が清代の中国に「輸出」された経緯もあります。

註2 喜舎場永珣は自書『八重山古謡下』の中で「大国(taiguku)」は「安南のこと」と記述しています。安南は現在のベトナム。『沖縄語辞典』には「teekuku〔大国〕 中国を大国として尊敬する語」とあります。

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