比嘉清の文でおぼえるうちなあぐち

聴ち美らさ 語い美らさ 書ち美らさ 御万人ぬうちなあぐち

はいさい、ぐすうよう。いめんせえびり。 うちなあぐちの散文を丁寧文で実践している比嘉清です。 うちなあぐちへは散文から入るのも一つの手です。沖縄の団塊世代は日本語を学ぶのに100%近くが小学校の教科書から入りました。大きくなって発音の違いに苦労しましたが、長い目でみれば、今は文章から入ってよかったと思っています。

2014年09月

うちなあぐち

① 今(なま)あ平生(ふぃいじい)から美味(まあ)さ物(むん)ぬまんどおくとぅ、「美味さむん」ぬ積(ち)むええし「命薬(ぬちぐすい)」んでぃ言(い)ちん済(し)みいがすら。
② ちゃあ仕事(しくち)びけんそおくとぅ今日(ちゅう)や命(ぬち)ぬ洗濯(しんたく)すさ。
③ 戦世(いくさゆう)、無事(ぶじ)に走(は)い過(くぁ)あち来(ち)ゃしん命(ぬち)果報(がふう)ぬあてえくとぅどぅやる。なあ、命(ぬち)ぬ御祝儀(ぐしゅうじ)んしわどぅやる。
④ 若さいにい、命(ぬち)限(かじ)り働(はたら)ちょおたくとぅ今(なま)あ楽(らく)そおん。
⑤ あんすか、命(ぬち)切(ち)り働(ばたら)ちしん、暮(く)らし方(がた)んならん。
命捨(ぬちし)たあとぅ耄(ふ)り者(むん)とお似(に)ちょおる所(とぅるま)ぬあん。
⑦ 長(なげ)えさ柔(やふぁ)らちょおたくとぅ、なあ命弦(ぬちぢる)ぬ弱(よう)とおん

日本語

① 今は普段から美味しいもの多いので、「美味しいもの」の意味で「命薬」といって言っても好いものだろうか。
② いつも仕事ばかりなので、今日は慰労日にするよ。
③ 戦争を無事にやり過ごしてきたのも命の運があっての事だ。ここで命の御祝いもせねばなるまい
④ 若い頃、一生懸命働いていたので今は楽に暮らしている。
⑤ これほど、死のもの狂いで働いても生活ができない。
命知らずと馬鹿とは似ている所がある。
⑦ 長らく、病弱でいたので命が消えかかっている
 
【解説】
 日本語にも「命」に関する慣用句はありますが一部を除き沖縄語のそれは独自の「進化」を辿ってきました。

例文①「命薬」は元々健康や長寿に良いとされる食べ物の意味ですが「とてもおいしい食べ物」の意味に転じています。
例文③「命の洗濯」は日本語からの借用です。「慰労会」を「命の洗濯会」と拡大的に使う例もあります。
文例③「命果報」は「命ぬ報」とも言います。「命果報」は「運良く生きている事」や「命拾いしている事」等の意味があります。「命ぬ報」とも言います。日本語の「命冥加(いのちみょうが)」にも似た意味があります。「命ぬ御祝儀」は「命ぬ御祝え」ともいいます。「なあ」は「もう」、「いまや」等の意味ですが、ここでは文脈から「ここで」と訳しました。
文例④「命限り」は「命がけ」又「命の限り」等の意味です。転じて「一生懸命」という意味にもなります。
文例⑤「命切り働ち」は「骨身にこたえるような仕事をする事」、「命を削る様な仕事をする事」等の意味です。
文例⑥「命捨たあ」は「命知らず」という意味で、「命知らず的に実行する事柄」等にも拡張して言います。
文例⑦「命弦」は「命の緒」又「命の炎」という意味です。

【応用問題】
 次の文の太字部分の意味に近い語句を例文を参考に言い換えなさい。

命(ぬち)ぬ報(ふう)ん、なあ銘々(めえめえ)ぬ心得(くくり)次第(しでえ)やあらに。
② あまぬ二才(にせえ)達(たあ)や諸(むる)、果(は)てぃいやんでぃどお。
③ でぃか、あんまあ、いっぺえぬ美味(まあ)さむん、うさがいが。
④ くぬ赤(あか)ん子(ぐぁ)あ生(ん)まりてぃ直(ちゃあ)きどぅやしが、なあ死(し)にがたあ回(まあ)とおん
命捨(ぬちし)してぃ者(むん)とぅ命(ぬち)とぅ覚悟(かくぐう)そおる人(ちゅ)とお変(か)わゆん。

答え:
① 命果報。
② 命捨たあ。
③ 命薬。
④ 命弦ぬ弱とおん。
⑤ 命捨たあ。

日本語意訳:
①命拾いするのも各人の用心する心次第なのではないか。
②むこうの青年達は皆命知らずとの事だ。
③さあ、お母さん、とても美味しいものを召し上がりに。
④この赤子は生まれたばかりだが、もう命の緒が切れそうである。
⑤命知らずと命がけの人とは異なる。

うちなあぐち

① 只(ただ)んちょおん、いんちゃさる命(ぬち)、大切(てえしち)に貯(た)ぶら
命切(ぬちち)り業(わざ)さあに、命取(ぬちとぅ)たん
③ 病院(びょういん)迄(まで)え、やっぱとおたしが、如(ちゃあ)ならな命切(ぬち)りたん
④ 消防隊(しょうぼうてえ)や人(ちゅ)ぬ命助(ぬちだし)きする事(くとぅ)がる仕事(しぐと、しくち)やる。
⑤ 昔(んかし)ぬ唐旅(とうたび)え、命(ぬち)とぅ覚悟(かくがあ、かくぐう)やたんでぃぬ事(くとぅ)やん。
⑥ 後窪(うしるくぶう)や命所(ぬちどぅくる)やくとぅ、いちゃんだん、打(う)つな
⑦ 生(い)ちち道(みち)、習(なら)あち取(とぅ)らする人(ちゅ)がる命(ぬち)ぬ親をぅや)やる。
命(ぬち)どぅ宝(たから)やる。生(い)ちちょおれえ、良(い)い事(くとぅ)んまんどおん。

日本語

① ただでさえ短い命、大切に生きながらえよう
命がけの仕事命を落とした
③ 病院迄は頑張っていたが、どうしようもなくこと切れた
④ 消防隊は人命救助が仕事なのである。
⑤ 昔の中国旅は命がけだったそうだ。
⑥ 後頭部は急所だから悪戯に打つな。
⑦ 生きる術(方法)を教えてくれる人こそ命の恩人である。
命こそ宝なのだ。生きていれば良い事も多い。

【解説】
 「命どぅ宝」(例文⑧)には単に「命を大事に」という意味合より戦争に「命を捧げない」、「落とさない」という反戦的意味と「命を守る」という積極的意味があります。明治政府による琉球併合の際、最後の中山(琉球)国王だった尚秦王の「芝居の中の台詞」に由来するとされます。「命」は文語では「いぬち」です。「命語」については、説明無しでも分かるもの、何となく分かるもの、意外な意味合いがあるものもありますが、何れもなるほどと思います。

例文①「命たぶゆん」は「命を貯・溜める」の意味。「命を危険に晒さず惜しむように生きる」の意味合いがあります。
例文②「肝取ゆん」は慣用的に例文の様な意味になります。「命を取る」の意味では「命取(ぬちとぅ)らりゆん」となります。
例文③「命切りゆん」は単に「死ぬ」意味でよいのですが、「伸びきった糸が切れる様に絶命する」等の意味です。
例文④例文では「人ぬ命助き」とありますが、「命助き」は「人の命を助ける」意味で使われます。
例文⑤「命とぅ覚悟」の「とぅ」は並列を表わす助詞ではなく、「について、に対して」という意味があります。他例:「むんとぅ無礼」(食べ物に対して失礼)。
例文⑥「命所」は「命に関わる所」という意味です。日本語では「急所」という漢語がぴったりですが、沖縄語には「やまとことば」的な表現が健在だといえます。
例文⑦「命ぬ親」は「人」に対して使います。単なる「恩人」は「恩(うん、をぅん)ぬあるっ人(ちゅ)」です。
 
【応用問題】
 次の文を太字部分の意味に近い語句を例文を参考に言い換えなさい。

命(ぬち)え粗(す)そおん軽(かろ)おんさんようい、大切(てえしち)にさびら
人(ちゅ)ぬ命救(ぬちすく)いねえ、自(どぅ)ん助(たし)きらりゆん。
③ あぬっ人(ちょ)お我(わあ)命(ぬち)ぬ恩(うん)ぬあるっ人(ちゅ)なとおん。
④ 医者あ自(どぅう)ぬ命(ぬち)ぬ事(くとぅ)ん考(かんげ)えらんぐうとぅうし、うみはまとおん。
⑤ 胴(どぅう)まある(ろ)(胴まあどぅ(ど))お諸(むる)、命(ぬち)とぅ係(かか)わいぬある所(とぅくる)なとおん。

答え:
① 貯(た)ぶとおちゃびら。
② 命助(ぬちたし)きしいねえ。
③ 命(ぬち)ぬ親(をぅや)。
④ 命(ぬち)とぅ覚悟(かくぐう、かくがあ)し。
⑤ 命所(ぬちどぅくる)。

日本語意訳:
①命は粗末にせず大切にしましょう。
②人の命を救えば自分も助けられる。
③あの人は私の命の恩人である。
④医者は自分の命を顧みず頑張っている。
⑤胴体は全て急所である。註:「胴まある」は『沖縄語辞典』にはありません。

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